平安のころ―。
時の帝には、
ふたりの不幸の影を宿した皇子がいた。
姉の姫宮を逆髪といい、
弟の宮を蝉丸といった。
蝉丸は生まれついての盲目ゆえ、
帝によって辺土に捨てられ、
いまは荒れ果てた庵にひとり住み、
孤独な日々を送っていた。
姉宮の逆髪はその名のとおり、
真紅の髪を逆立てた狂い姫であった。
この姫もまた王宮から追放され、
放浪の旅の途上にあった。
このふたり―。
いずれにいるかも知らぬまま、
互いの顔も見知らぬままに、
宿命の糸で結ばれた姉弟が、
せめてひと度の、
出逢いを求めてさまよう、
愛と遍歴の物語。